青く、高く、潔く

病院の通路を、大成が先導するようにして…進んでいく。


車椅子をひこうとした私の行為は、あっさりと…拒絶されて。


会話のないまま、君の後ろ姿に…ついていく他なかった。



君の、ぴょん、と跳ねたやんちゃな黒髪は――…ニット帽に隠されて。見えることは…なかった。




「……大成……、髪――…」


「ああ、バリカンで思いっきり刈った。」


「………そーなんだ。」


「けど、どんな風に抜けていくのか見たかったら、落武者になってから…切ったけどね。」


「………………。」



前方を向いたまま、けれど……あくまで明るい口調で、君は答える。



「けど、やめとけばよかったかなって。」


「……え?」


「短くしたらしたで、結局抜けて…チクチクして痒いし、枕についたソレを取るのが結構大変。いまや必需品は『コロコロ』。」


「…………。そ…、そうなんだ…。でも、大成頭の形いいから、きっと、どんな髪型でも似合っちゃうよ。」



「………。ん。」


気の利いた言葉なんて…分からなかった。

ただ、大成は。肯定も否定もせずに……ちいさく頷くばかりだった。







談話室に着くと、君は長椅子に私に座るよう促して。

それから…

「左足見せて」って……。

靴下を脱ぐように指示された。



「……青くなってるし…。」



甲には、エッジ部分を型どるような…

線状の痣ができていた。



「次の大会いつ?一応診てもらった方が……」


「いーよ、歩けるし。それに…」


「…………?」


「もう、やめようかって思ってたから。」


「……は?」


「スキー。」


「―――………。」




「それより、大成…再来月には手術するんでしょ?それで……、足は……。」



大成の病名を知った時。

私は――…、その、『骨肉腫』という病気を。


散々…検索した。



スポーツの復帰は可能なのか、それは……






それは……



ハッキリとしたものでは…なかった。







「…………。……涼はやっぱり…、聞きづらくてみんな遠慮するようなこと…スパッと聞けちゃうんだな。」



「……………。」


だって。周りの大人達は…教えてくれないんだもん。


ソレを…、私が聞かずして、誰が聞けるって言うの?




「……涼……。さっきの…トランプじゃないけどさ、どうなるのかっては…分かんないもんなんだよ。」


「……………。」



「俺はさー…、どっちかって言うと…ラッキーな方だと思うよ?治療も効果あるみたいだし、このままの調子でいけば、足だって切らなくても…いい。」



「……!じゃあ…」



「けど、この先…、絶対大丈夫だって保障はない。癌が再発するかもしれないし、転移してることだってある。いつ、暴れ出すか…わからない。」


「……………。」



「10年後まで……、なんにもなく、居られるとも…限らない。それって、努力次第でどうにか出来るなら…どうとでもするよ?でもさ、これって…、運、なんだよ。」



「運……?」


「弱いカードばっか渡されたって、ポーカーでは勝てない。けど…、たまたま、強いカードが渡っていれば。必然的に…勝てるだろ?病気も……そうだ。足を残して、骨を再生するにも…、沢山、時間がかかるし、感染症を起こしたり、弱った骨だから…また、骨折することもある。全部…、運に左右されるんだって。」


「……………。」










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