other self
「私はね、お散歩してるんだ。」
「こんなに朝早くから?」
「お兄ちゃん分かってないわ、お散歩は朝が一番いいのよ。」
とても懐かしい感じがした。似たような事を誰かが言っていたような気がする。おそらくテレビかなんかで聞いたのだろう。
「なるほどね、言われてみればそうかもしれないね。」
そう言って僕は少女に向かって笑顔をつくった。ただ久しく笑ってなかったせいか上手く笑えていたかは全くわからない。もし仮に笑えてたしてもそれはひどくぎこちないものだっただろう。僕は笑い方を忘れていた。笑顔を失っていた。
「でしょ、お兄ちゃんセンスあるわね。」
「はは、ありがとう。」
「お兄ちゃんは、ここらへんに住んでるの?」
「そうだよ。君は違うの?」
「違うよー、私は今おばあちゃんの家に泊まりに来てるんだ。」
「そうなんだ。」
「そうだよー。お兄ちゃんは毎朝ここに居るの?」
「うーん、さすがに毎日は来ないけど週に2回は来るかな。」
「ふーん、いつも考え事してるの?」
「うん。」
「お兄ちゃんは考えるのが好きなのね、私は苦手だわ。」
少女は難しい顔をして言った。
「はは、別に考えることが好きなわけじゃないよ。」
僕の言葉に少女は首をかしげた。
「だったら、何をそんなに考え事をしてるの?」
「何を・・・・・・。」
僕は言葉に詰まってしまった。
少女はとても不思議そうに僕を見ている。
「ごめん、ちょっと言葉では表せないな。」
「ふーん。」
少女はすこしつまらなそうな顔をした。
「まあ、いっか。」
そう言って彼女は勢いよくベンチを立った。
「それじゃあ、私そろそろ帰らないといけないから。」
「うん、気をつけてね。」
「ありがとう。」
そう言ってニコっと笑うと少女は去っていった。
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