ヒット・パレード
その後も、森脇は辛抱強く前島のマンションを訪れた。自分が諦める事だけは絶対にあってはならない。
そして、いつの日か前島を立ち直らせまた、昔のような平穏な生活が送れる時がやって来る事を信じていた。
そんな、ある日。森脇が前島のマンションへ行くと、前島の様子がいつもと違う事に気が付いた。
部屋の中では、前島がオーディオ機器で音楽を聴いていた。しかも、それはトリケラトプスのファーストアルバムであった。
こんな事は、前島が怪我をして以来初めての事である。
それに加え、この日の前島はどことなく穏やかな表情をしていた。無造作に伸ばしていた無精髭も綺麗に剃って、髪型もしっかりと整えている。それはまるで、かつての前島が戻って来たかのような印象を、森脇は感じた。
「あれ?なんか今日は、バッチリとキメてんな」
森脇が嬉しそうに言うと、前島は久しぶりに見せるニカッとした笑顔を森脇に向けた。
「ああ、午前中にちょっと病院に行って痛み止めの薬を貰って来たんだ」
「えっ、お前外に出たのか?」
森脇は、驚いた。今まで部屋に籠りっぱなしで一歩たりとも外へ出た事など無かったのに、この変わり様はどうした事だろう。
「そうかあ、感心、感心、その調子だよ!」
ようやく前島が光を取り戻しつつある。そんな兆候を感じ取った森脇は、嬉しくて仕方が無かった。
「よし、晃。今日は飲もう!」
そう意気込んで、森脇が冷蔵庫から缶ビールを数本抱えてテーブルの上に並べる。
缶ビールのプルタブを開けて、前島に言った。
「じゃ、乾杯だ、乾杯!」
「一体、何に乾杯するんだよ?」
前島に突っ込まれ、暫し宙を仰ぐ。
「まあ、なんだ。俺達の未来にってとこかな」
そう言って、森脇は自分の缶ビールを強引に前島のビールにぶつけた。
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