ヒット・パレード
派手なネオンの繁華街とは変わって、タクシーの窓から見える景色は街灯と一般住宅の白い灯が点々と並ぶ。
そんな流れる景色をぼんやりと虚ろに眺めていた陽子だったが、その陽子の瞳が急に驚いたように、ある一点に釘付けになった。
「ちょっと運転手さん、止めて!」
「は?」
運転手が聞き直す。聞いていた目的地は、まだずっと先である。コンビニも無い、こんな所に車を止める必要があるのか?
「もしかして、気持ちが悪いんですか?」
車内で吐かれたら、堪らない。
まず最初にその事を心配した運転手だったが、そうでは無かった。
「ここで降ります!車を止めて下さい!」
陽子は、ここでの下車を希望した。しかし、陽子のマンションはここには無い。
「降りるって……本当にこんな所でいいんですか?」
訳が分からない様子で首を傾げながらも、運転手は陽子の言う通り、タクシーを停めた。
まだ料金メーターは、ワンメーターしか回っていない。少し不満そうな表情の運転手に、陽子は千円札を出して「おつりは、結構ですから」と言って、タクシーを降りた。
陽子がタクシーを降りた場所には、公園があった。
周りを柵で囲まれたその公園には、木製のベンチがひとつとブランコ、そして子供用の滑り台が設置されている。
もしも陽子の見間違いで無ければ、タクシーの窓から外を眺めていた時、そのベンチには彼女の知っている、ある人物が座っていたのだ。
敷地内の電灯に照らされた公園のベンチに視線を移すと、そこには確かに人が座っていた。
やっぱり、そうだ。
陽子は、公園の柵の前に立ったまま、息を大きく吸い込んでから、その人物の名前を大声で叫んだ。
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