ヒット・パレード
「おいっっ!もりわきゆうじいぃぃぃっっ!」
公園のベンチの端に、煙草を吹かしながら背中を丸めて座っていたのは森脇だった。
不意に名前を呼ばれ、声のした方角へと頭を上げると、その視界には自分の方に向かって物凄い勢いで突進してくる陽子の姿が映った。
「な、なんだ?」
この場所に陽子がいる事に、驚きを隠せない森脇。と言うより、猛然とこちらに突進してくる陽子の只ならぬ表情に、恐怖さえ感じた。
例えるなら、ボクシングの試合で相手をリングに沈めようと、コーナーから猛然と飛び出す挑戦者のような、鋭い殺気のようなものだ。
「おい、なんだおまっ!ちょっと待て!」
慌ててベンチから立ち上がり、後退りしようとした森脇の顔面に、容赦の無い陽子の右ストレートが炸裂した。
「んごばっ!」
陽子の放ったパンチを顔面に受け、森脇が水に溺れたゴリラのような声を上げ、その場に尻餅をつく。
「痛ぇなっ!なにしやがんだっ!いきなり」
地面に仰向けになりながら、ムチャクチャな陽子の先制攻撃に怒る。当然だ。自分が殴られる理由など、全く身に覚えが無いのだから。
ところが、陽子はその無礼を詫びるどころか、さらに仰向けになっている森脇の腹に馬乗りになった。
「うるさいっ!この大ばかやろうっ!」
そう叫び、陽子は森脇にマウント状態になりながら彼の胸板をドンドンと拳で殴りつけた。
「いったい、何なんだよ!お前はっ!」
見れば、陽子の表情は今にも泣きそうであった。
まるで、オモチャを取り上げられた子供のように、ただ、ただ、悔しそうに森脇の胸を叩き続けていた。
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