ヒット・パレード
「マスターに全部聞いたわよっ!
アンタってほんとに大ばかっ!
救いようの無い大ばかよっ!
28年も何やってんのよ!
ロックから足を洗うなんて大嘘!
本当は、ロックが好きで好きで堪らないくせに!
前島さんに負い目を感じてるの!?
それで前島さんが喜ぶの!?
アンタが不幸になって、それで前島さんが喜ぶとでも思っているの!?
ロックが好きなんだろっ!
ロックが演りたいんだろっ!
だったら、演れよ!
演って、演って、演りまくればいいじゃんかよおおおっ!」
きっと、酒に酔っていたせいもあるのだろう。
酔っていたからこそ、理性も何もかもを捨て去った陽子の剥き出しの感情を、そのまま素直に森脇にぶつけられたのかもしれない。
そして、そんな本音の剥き出しの感情だけが、森脇の永く凍りついていた心の雪を溶かす事が出来るのかもしれない。
森脇のシャツの胸に、陽子の瞳から溢れた温かい涙の雫が落ちて滲む。
森脇は既に無抵抗で、泣き喚く陽子の言葉をじっと聞いていた。
そして、散々思いのたけを訴えた後、陽子は最後に森脇の胸に顔を埋めるようにして、言った。
「ねぇ……お願いだから、もう自分を責めるのはやめて。
前だけを向いて生きて………」
森脇は何も言わずにただ、星の瞬く夜空を眺めていた。
思えば、こうやって空を眺めるなんて事は前島が刺されたあの日から、もうずっとした事が無い。
東京の空は汚れているなんて人は言うけれど、こうして見るとなかなかいいもんだな………などと、ぼんやり考えながら、森脇はしばらく眺めていた。
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