ヒット・パレード



「それで、話ってのは?」


マスターが差し出したジャック・ダニエルのロックに口をつけてから、森脇が切り出した。


「ええ、まだライブの細かい内容をお伝えしてませんでしたので、こうして話し合いの席を設けさせていただきました」


通常であれば、スタッフを通じて電話で済ます事も出来る内容の説明であるが、ことトリケラトプスに関しては本田は、自らが立ち会う事に拘った。


それが、かつて日本中を魅了した伝説のロックバンドに対する本田からの敬意と礼儀を込めた行動であった。


「そんなに、固っ苦しい話でも無いだろ?音楽祭形式なんだってな………て事は、俺達の持ち時間は15分程度ってところか?」


多くのアーティストが参加する音楽祭では、通常一組あたりの持ち時間は二曲か多くても三曲、そんなものである。森脇もその程度のものを想像していた。


ところが、本田の構想はその森脇の予想を遥かに上回るものであった。



「いいえ。今回の24時間ライブでは、トリケラトプスは特別枠のゲスト扱いでと私どもは考えています。
トリケラトプスの持ち時間は、1時間強。この特番の《トリ》を務めてもらいたいと思います」


それを聞いた森脇の表情が変わった。


「へえ………そんなに演らせてもらえるのかい。そりゃ、光栄だね」


舞台が大きければ大きい程燃えてくる。森脇は、本田の言葉に少しも狼狽える事なく、むしろ嬉しそうに口角を上げて微笑んだ。


「日時は、テレビNET開局記念日の8月24日、会場は日本武道館」


その告知を耳にした森脇の、ロックグラスを持つ右手に力が入る。


「申し分ないね。アンタも気が利くな」


奇遇にも、8月24日は前島 晃の命日………そして、武道館は生前の前島が最も演奏を切望していたコンサート会場であった。



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