ヒット・パレード



その後、森脇はドラマーの森田もメンバーに引き入れ、トリケラトプス再結成の準備は着々と進んでいった。



「それじゃ、バンド再開に乾杯だ」


解散後、森田が始めた居酒屋《深村さ来(ディープパープル)》でトリケラトプス再結成の祝杯を上げる森脇、武藤、森田の三人。


三人が顔を揃えるのは、バンドが解散して以来28年振りの事である。各々が別々の道を歩き五十を越える年齢となり、その席はまるで同窓会の様相となっていた。


「しかし、武藤は中古外車販売店の社長で森田は居酒屋の店主かよ。二人共、しっかり成功してんじゃねえか」


森脇の言う通り、武藤も森田もバンド解散後の自分の生活基盤をしっかりと築いていた。そして、その基となったのはトリケラトプス時代のレコード売り上げの印税、そしてコンサートのチケット売り上げによる収入に他ならない。


トリケラトプスの楽曲の殆んどは、実際には森脇と前島の二人が手掛けていた。しかし、森脇の提案で作詞作曲のクレジットは全てトリケラトプスとし、楽曲の著作料による収入はバンド四人に平等に行き渡るようにしていた事が大きい。


「そういうお前はどうしたんだよ。バンド解散後も金には不自由しなかった筈だろうが」


森脇がバンド解散後、工事現場の肉体労働をしながら質素な生活を送っていたと知ると、武藤は納得のいかない表情でその理由を森脇に問いただした。


「金かぁ……あの金ならほとんど、昔ガキの頃世話になった孤児院に寄付しちまったな」


あっけらかんとそう語る森脇に、武藤と森田は呆れた顔で肩を竦める。


「……ったく、伊達直人かよ、お前は………」


「事、音楽意外に関しては、全く駄目だなお前は」


森脇の不器用な生き方には、ほとほと呆れてしまうばかりである。やはり、この男は音楽無しでは生きる事が出来ないのだろうな………


二人の目の前で笑う森脇の姿を見て、武藤と森田は改めてそう確信するのだった。



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