ヒット・パレード



トリケラトプスのギター、前島の代役を捜してくれと本田に依頼した森脇。その本田から森脇に連絡が来たのは、六月に入って間もなくの事だった。


「とりあえず、私の方で出演可能な何人かの候補を選出してみましたので、森脇さんにその中から絞りこみをしていただきたいと思いまして………」


本田に呼ばれ、局に訪れた森脇、武藤、森田の三人。本田に会うと、挨拶も程々に彼から一台のノートパソコンを手渡された。


「その中に、私が選んだ二十人のギタリストの映像が収められています」


テーブルの上でノートパソコンを開いて、早速映像を確認してみる。


映像は様々、スタジオでギタリスト一人で撮影されたものもあれば、バンドのライブでのギターソロを中心に編集された映像もある。ギタリストの年齢も二十代、三十代から、森脇らと同世代の人間まで広範囲に渡っている。


その映像に共通するのは、いずれも高い演奏技術を持ったギタリストだという事、さすがはこの業界で音楽に携わってきた本田である。見る目は確かだった。その事は、森脇も認めた。


「ずいぶんと苦労したみたいだな、本田さん。礼を言うよ」


真剣な表情で画面を見つめながら、森脇がそう呟いた。


「そう言って頂けると有り難い。しかし、それでもあの前島 晃の代役としては不安は拭えないんですけどね」


全盛期の前島を観た事のある本田としては、それはお世辞でも何でも無く、本心から出た言葉だった。


「そりゃ、仕方無いだろ。アイツは百年に一人の天才だよ。あんなギタリストはそう簡単には出てこないさ」


森脇の横で映像を見つめながら、武藤が言った。


「分かってるよ武藤。言ったろ、そこまでは求めていないって。この中から決めよう」


武藤の言葉を制止して、森脇は続けて映像に注意を向けた。その時、ふと画面に映ったギタリストに興味を抱いた。


「あれ?これ、《バンデット》の黒田 明宏じゃないのか?」


そこに映っていたギタリストに、森脇は見覚えがあった。


「その通りです、森脇さん。《バンデット》は解散しましたが、黒田 明宏はその後も幾つかのバンドを渡り歩き、現在はソロとして活動を続けています」


黒田に対する近況報告を本田から受けると、森脇はニヤリと口角を上げてその映像に見入った。


「へえ~《スピードキング》の黒田がまだ演っていたとはね」



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