ヒット・パレード



トリケラトプスが日本のロック界に一大旋風を巻き起こしていたあの頃、前島 晃の他にもう一人、天才と呼ばれるギタリストがいた。


当時、バンデットという名のバンドに所属していた、黒田 明宏。


年齢は前島よりひとつ下。バンデット自体はトリケラトプスのように人気のあるバンドでは無かったが、その中でも黒田のギターワークは一際異才を放っていた。


二人のプレイスタイルには違いがある。


前島の天才たる由縁はその多彩なメロディセンスにあった。同じ曲のギターソロでも状況に合わせ即興で変幻自在にメロディを組み立てる、聴く者に常に新鮮な驚きを提供する天才的なメロディセンス。
対する黒田の特徴は、神がかり的な速弾きにあった。


一部のファンやギターフリークから《スピードキング》と、もてはやされ、速弾き勝負であれば前島は黒田に敵わないのではないか?と噂された程である。


だが、実際にはそうでは無かった。


ある時、トリケラトプスのステージに、事前の打ち合わせも無く突如として黒田が飛び入りして来た事があった。


黒田としては、超満員のステージで前島にギター勝負を挑み、得意の速弾きで彼を負かして世間に名前を売るきっかけにしようとしたのだろう。


ところが、結果は黒田の思惑通りにはいかず前島の圧勝に終わったのだった。


なんと前島は、黒田が全力を尽くして演奏した渾身の速弾きギターソロを、くわえ煙草でいとも簡単に完コピして見せたのだ。


唖然とする黒田に、前島は笑って言うのだった。


「余計な事するんじゃなかったなあ~~スピードキング!」



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