ヒット・パレード



ゆったりと寛ぎながら、アーティストの奏でる美しいメロディに心を預け聴き入る観客。


しかしその舞台裏では、眠る時間さえろくに取らずに忙しなく次の段取りに備えて動き回る番組スタッフの姿があった。


「この曲が終わったら、CM一分入れるぞ!」


「次のステージ、照明チェックお願いしまーーす!」


「次!3カメから入るからっ!」


失敗の許されない生放送の緊張感。どのセクションも引き締まった表情で持ち場のチェックに余念が無い。


しかし、スタッフがどれだけ完璧に職務を全うしようとも、トラブルを完全に防ぐ事は難しかった。


「本田さん、困った事になりました」


時刻は午前5時過ぎ………第三グループのステージもあとわずか、もうすぐ夜明けを迎えようという時だった。


次グループアーティスト達の会場入りの確認を電話で行っていた陽子が困惑顔で本田のもとへ、その事を報告に来た。


「どうした陽子、何かあったのか?」


陽子が本田に見せた困惑顔の裏には、あの大御所演歌歌手《大俵 平八郎》が関わっていた。


「今しがた大俵さんのマネージャーさんから電話がありまして、次のグループで出演予定の大俵さんの出番を、午後6時以降に変更して貰いたいと………」


「なんだと!今さら変更なんて出来る訳がねぇだろっ!何考えてんだ、あのオヤジはっ!」


大俵 平八郎のステージは次の第四グループのトップ。もう、あと一時間後にはこのステージの上に立っていなければならない。


大俵の事務所には、既に二週間以上前からそのプログラムを伝えてあり、本人のスケジュールも確認の上で了承を得ているのだ。それを、こんな間際になって時間の変更など、余程の理由でもないかぎり認める訳にはいかない。



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