ヒット・パレード
「それで、理由は何なんだ?」
もし本人の体調不良というのなら、午後6時以降なら大丈夫という理由の説明がつかない。いったい、どうして早朝ではダメなのか?
「それが、訊いたんですけどマネージャーさんにも理由はよく分からないみたいで………」
「ふざけんなっ!そんなのが通るかっ!」
はっきり言って、大俵のステージなど別に観たくも無いのだが、生放送に穴が空くのはプロデューサーの本田にとっても非常に困る。なんとしても大俵を引っ張り出す為に、本田はマネージャーを通り越して本人に直接電話をかけた。
『はい、大俵です』
「ああ、大俵さんですか。テレビNETの本田です。困りますよ大俵さん、もうすぐアナタのステージが始まります!すぐに会場入りしてくれませんか!」
時間変更の事は無視して、今すぐ武道館入りを促す本田に対し、大俵は何とも呑気な口調で応える。
『おや、マネージャーの木村から聞いてませんか?私、ちょっと用事が出来ちゃってね~出番を夕方位に変えて欲しいんですわ』
「用事って、いったい何の用事なんですか」
『いやあ~、友人にゴルフに誘われちゃってね。朝からラウンド回らなきゃならないんですよ』
「ゴ、ゴルフ……?」
大俵のあまりに身勝手な返答に、目が点になる本田。
「アナタ、本気で言ってるんですか!ゴルフと仕事とどっちが大事なんです!」
『いや、だから仕事はちゃんとやりますよ。ただ、時間をちょっとずらして欲しいんだけどね』
「欲しいんだけどねじゃありませんよ!マネージャーから連絡貰ったの、さっきですよ?そんな簡単にはいきませんよっ!」
『そこをなんとかね。ちょこちょこっと上手くやってくださいな』
なにが『ちょこちょこっと』だ。生放送を何だと思っているのか?
製作側の苦労など全く気にもとめないその言い草に、本田ははらわたが煮えくりかえりそうになる。その上、大俵はこんな事も言ってきた。
『大体、朝の6時じゃそんなにテレビ観てる人も少ないんじゃないのかね?どうせ歌うんだったら、私ゃゴールデンタイムの方がいいなあ~♪』
その通りだよ!確かに日曜の早朝は視聴率が落ちるよ。だから、わざわざテメエの出番をこの時間帯にしたんじゃね~かっ!
受話器を強く握り締め、そう本音を洩らしたいのをぐっと堪える本田。だから、最初から大俵は出したくなかったのだ。
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