ヒット・パレード



「なんか、お客さん戸惑ってますね………」


「演歌を聴きに来たつもりがヘビメタだからな、無理もないだろう」


大俵のムチャぶりを通した為の緊急措置とは言え、観客には申し訳ない事をしたと、僅かに胸が痛む。


デビル・ハンドにも悪い事をした。ノリの悪い観客の前での演奏は、彼等にしてもさぞかし演り辛かったに違いない。


それでも精一杯ステージを務めてくれた彼等。《デビル》なんてとんでもない、本田にとっては神様、仏様、デビル・ハンド様である。


やがて、ステージを終えて戻って来た彼等に、本田は心からの感謝の言葉を述べた。


「無理を言って本当に済まなかった。おかげで番組に穴が空かずにすんだよ。ありがとう!」


「いえ、そもそも俺達なんかテレビに出る器じゃ無いのに、今回のライブに声を掛けて下さって、こちらこそありがとうございました」


そう言って、低姿勢な態度で謙遜して見せるデビル・ハンド。人は見かけによらない。本当にこの四人、ステージ以外では品行方正な好青年達である。


それにしても、許せないのはこの混乱の原因を作った張本人、大俵 平八郎だ。


こっちの苦労も知らずに、今頃はどこかのゴルフ場でのうのうとコースを回っているに違いない。そして、夕方になれば何食わぬ顔で会場入りして来るだろう。


どこの世界にも、権力に胡座をかき人を人とも思わない傲慢な輩はいるものだ。


そして、いつでも被害を被るのは現場の人間と相場が決まっている。


いささか遣りきれない気持ちを胸に収め、本田は粛々と次のステージの準備へと取りかかるのだった。



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