ヒット・パレード
局から真っ直ぐ自宅のマンションへと帰宅した陽子は、部屋に上がるなり、真っ先にバッグから例のCDケースを取り出した。
CDプレーヤーの電源を入れ、イジェクトボタンを押す。
出て来たディスクトレイに、陽子は本田から受け取ったCDディスクを乗せ、再生の準備をした。
「これでよし……と」
『半年後の24時間ライブのスペシャルゲスト。日本でナンバーワンのロックバンドだ』
スタジオで聞いた本田の台詞が、陽子の頭に浮かぶ。
本田のアーティストを見る目が確かである事は、一緒に仕事をしている陽子はよく知っている。その本田が、あれだけ絶賛するトリケラトプスとは一体どんなバンドなのか、陽子には大いに気になるところであった。
聴いた事の無い曲を初めてかける瞬間、誰でも抱く、わくわくするような高揚感。
陽子も、そんな高揚感を抱きながらプレーヤーの再生ボタンを押した。
いきなり、渇いたディストーションの効いたギターリフが、弾き出されるようにスピーカーから飛び出した。
「うわ………」
その時の陽子の気持ちを例えるなら………窓を開けて外を眺めていたら、近所の家の屋根の影からいきなり大きな美しい花火が打ち上がった……そんな驚きがあった。
一言で言えば、スゴくカッコイイ!と、陽子は思った。
仕事柄、毎日のように音楽を聴く。
日々どこかで生まれる新しい楽曲を聴いていると、稀に聴いた瞬間『これは間違いなく売れる』と本能的に感じる曲がある。
今、聴いているトリケラトプスの曲がまさにそうだった。
覚え易い印象的なギターリフから、力強いドラムが入り、重量感のあるベースがそれに加わる。ミドルテンポながらノリは抜群に良く、聴いていると、陽子は身体の中からアドレナリンが湧き上がってくるのをリアルに感じた。
そして、ボーカル。
これがまた、曲のイメージにぴったりのワイルド&ハスキーボイスだった。
「この声、超ストライクゾーンなんですけど!」
本田が《日本ナンバーワンのロックバンド》と豪語した事も、これならば頷ける。
ディスクを聴き続けたが、ハイテンポの曲、スローバラード、どれをとっても陽子の心を鷲掴みにするには十分な魅力的な楽曲ばかりだった。
こんな凄いバンドが日本にいたなんて………それを今の今まで知らなかった事を悔やむ程に、陽子はすっかりトリケラトプスの虜になってしまった。
「もおぉぉ~~!トリケラトプスサイコーーーーッ!」
.