ヒット・パレード
陽子の案内で楽屋へとやって来た、トリケラトプスのメンバーと黒田。
その時ちょうど演奏していた《プラチナボンバー》のステージをテレビで観た森脇が、眉根を寄せて呟く。
「なんだ、コイツら?」
「ああ、彼等はプラチナボンバーです。結構人気あるんですよ」
陽子が解説をすると、森脇は不思議そうな面持ちで、陽子に更なる解説を求めた。
「人気があるはいいけどさ、コイツら楽器弾いてねぇじゃねえか。素人なのか、コイツら?」
昔、外国人アーティストが《口パク》で問題になった事があったが、日本人のアーティストでここまで大胆に観客を騙そうとする事に森脇は驚いた。だいいち、ギターの指使いはデタラメ、ドラムのリズムも合っちゃいない。これでよく客からクレームが付かないもんだ。
「ああ、あのバンドは楽器弾けないんです。ファンの人達もみんな知っていますよ」
「はああ?なんだそりゃ?」
陽子の説明に、素っ頓狂な声を出す森脇。そんな事あり得ねえだろといった顔だ。
「エア演奏なんですよ」
「だったら、ボーカルのアイツひとりで良くね?」
森脇の至極合理的な感想に、思わず吹き出してしまう陽子。
「言われてみればそうかも♪
でも、あのスタイルが彼等のウリなんですよ」
プラチナボンバーのあのスタイルが彼等のブレイクのきっかけになったのだと陽子に説明され、森脇はなんとも不思議な気分になった。
「分かんねえな………日本の音楽界も変わったもんだ………」
「まるで、浦島太郎だな森脇」
武藤の冗談に、森脇が苦笑する。楽屋の雰囲気も和んできたそんな時だった。
「じゃあいっそのこと、ウチのギターもエアギターでいくか」
ふいに森田が言った冗談に、黒田が過敏に反応した。
「ふざけんな!舐めた事言ってんじゃねえぞ!このヘボドラム!」
「テメエに言われたくねえよ!ヘボギター!」
「なんだと!この野郎!」
和やかな雰囲気から一転、森田と黒田の一触即発の危機に森脇が割って入る。
「おい!止めねーーかっ!」
森田に掴みかかろうとする黒田の肩を押し戻し、二人を引き離す森脇。
「もうあと何時間で本番だぞ!喧嘩してる場合か!」
この期に及んでも、まだメンバーの結束は十分とは言えない。こんな状態で、果たしてトリケラトプスのステージを無事にやり遂げる事が出来るのだろうか………
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