ヒット・パレード
テレビNET24時間ライブの最後を締め括るトリケラトプスのステージ。
その模様を中継する生放送は、日本全国を熱狂の渦に巻き込んでいた。
ゴールデンタイムを過ぎた午後11時という時刻にも関わらず、テレビNETのこの時の視聴率は驚くなかれ43%を超え、まるでサッカーワールドカップの日本代表戦を思わせるような高視聴率を叩きだした。
その影響なのか、普段ならこの時間でも人で賑わう繁華街も、この夜ばかりは閑古鳥が鳴く飲食店が相次いだ。
「へい、らっしゃい!」
「あれ、今日はやけに空いてるね。大将」
「それもこれも、アイツらのせいだよ」
大将は、半ば諦めたような表情で、普段はカラオケのモニターとして使用している店内のテレビを顎で指した。客の居ない今、そのモニターにはカラオケでは無くトリケラトプスのライブの模様が映し出されている。
「トリケラトプスのライブのせいで、客はみんな家に引き込もってテレビにかじり付いてるよ!」
しかし、そんな大将の声色は話の内容とは裏腹にどことなく明るい。
「そんな事言って、大将だってテレビでライブ観ているじゃないか」
「当たり前だ!こんな凄ぇライブ、ちょっとやそっとじゃお目にかかれるもんじゃ無ぇからな!」
「なんだよそれ、いったいトリケラトプスのライブを歓迎してるんだかどうだか………」
「もちろん大歓迎さ。これでも、高校の頃はトリケラトプスに憧れて仲間とバンド組んでたもんさ!」
「あれ、大将もバンド組んでたの?
実は俺も同じようなもんでさ」
日本中がバンドブームに沸いた80年代………彼等のように高校生でバンド演奏に夢中になった大人は少なくない。そして、そんな彼等にとってトリケラトプスは永遠の憧れであり、懐かしい青春の象徴であった。
カウンターを挟み、大将と客がビールを注いだコップを手に微笑みを交わしながら乾杯する。
「たまには、ロックンロールを肴に酒を酌み交わすのもオツなもんだ」
「俺達のトリケラトプスに乾杯!」
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