ヒット・パレード


今だ、興奮醒めやらない観客席と降りたばかりの幕を隔てたステージには、ライブを終えたばかりのトリケラトプスのメンバーが暫しの余韻に浸っていた。


28年ぶりのライブを全力でやり遂げた達成感、そして再び前島と一緒に演奏が出来たというこの上ない幸福感。


武藤と森田、そして喜矢尻が森脇のもとへ歩み寄り、それぞれが固い握手を交わした。


そして最後に、前島 晃が憑依しているであろう喜矢尻を、森脇は力強く抱きしめた。


「晃、やっぱりお前は最高だよ!」


ギターが弾けない体になった事を苦に、自らその命を絶った前島。その彼にしても、念願だった武道館で最高のライブステージが出来た事はこの上ない歓びだったに違いない。


森脇に抱かれた喜矢尻は、本当に嬉しそうなとびきりの笑顔を森脇に向けると、最後にひとこと言った。




「ありがとう勇司。これでやっと逝けるよ」




次の瞬間。森脇のを抱えていた喜矢尻の身体から、まるで糸の切れた操り人形のように全身の力が抜けた。


「お、おい!晃!」


その後は森脇がいくら呼んでも、前島が帰る事は無かった。次に喜矢尻の意識が戻った時、彼はこの一時間半の記憶を全て無くしていた。



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