ヒット・パレード
局からの帰り道、陽子は自分の車を運転しながら、苛ついた様子で口を尖らせていた。
「なんで私がトリケラトプスの出演交渉担当になるのよ!」
自分が生まれた頃に解散したトリケラトプスの事を知ったのは、ほんの昨日の事である。
そんなバンドの出演交渉を、本田では無く何故自分が担当しなければならないのか。
しかも聞くところによると、トリケラトプスは解散後、ソロ活動をする訳でもなく、まるで霧のように芸能界から姿を消してしまったのだと言う。
「消息不明のバンドなんて、どうやって捜すのよ!私は探偵かってーの!」
まったく、今日は本当についていない。
こんな日は、早く家に帰って部屋で焼け酒でも呑んでやろうかと思った陽子だが、神様はそんな気晴らしさえも満足にさせてはくれないらしい。
さっきから、渋滞で車が全く動いていないのだ。
「あーーーもう、イラつく!」
渋滞の原因は、年度末の道路工事のせいだった。陽子の目の前の道路は、本日の午前10時より工事が始まり片側交互通行となっている。
朝、局へ行く時にこの道を通った時にはまだ工事は始まっていなかった。それで、帰りもこの道を通ったのだが、それが間違いだった……工事があると知っていたなら迂回して別のルートを選んだのだが、今となってはもう遅い。
対向車の一番最後の車両が通り過ぎると、やっとこちら側の車両が動き始める。
「ほら、前の車!もたもたしないで早く進んで!」
陽子の2台前の車両が動き始めると、陽子はハンドルを叩いて目の前の車の発進を煽る。
早くしないと、工事現場の交通整理をしている旗持ちのオヤジに車を停められてしまう。
「ほら!早く行けって、このノロマ!」
思わず言葉づかいも荒くなる。車に乗ると人格が変わる輩がいるが、陽子もその部類に入るらしい。
徐々に前の車の列が短くなっていく。あの、旗を振っている交通整理の横を通り過ぎれば、やっとこの渋滞からは解放される。
と、思ったその矢先だった。
目の前まで来た交通整理のオヤジが、ちょうど陽子が通る番のところで旗を突き出した。
「ええーーーーーーーっ!」
その数秒後には、向こう側で並んでいた車の列が、堰をきったように陽子の車の横を通り過ぎて行った。
「超ムカつく……あのオヤジ!」
向こうも仕事で仕方が無いとは理解しつつも、陽子は恨めしそうな表情で、その交通整理のオヤジを睨み付けるのだった。
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