ヒット・パレード
「本田さんにお客様がお見えになってますけど」
電話を終えた本田のもとへやって来たADの岩本が、来客の旨を伝えてきた。
「来客、俺に?」
この業界では、人と会う時には前もってアポを取るのが常識となっている。ましてや、多忙なプロデューサー位の役職となれば、その辺り気遣いは言われなくても分かりそうなものだ。
いきなりやって来て、本田に面会を希望する人物とは一体誰だろうと、本田は首を傾げた。
「来客って、誰?」
ADの岩本に相手の名前を問うと、岩本は少し言い辛そうにその名前を告げた。
「それが………大俵 平八郎さんでして………」
「はあーっ?大俵 平八郎!」
思わず、その名前を訊き返す本田。
大俵 平八郎といえば、演歌界の大御所であり、また多くの演歌歌手を抱える音楽事務所の社長でもある。
その演歌界の大御所が、マネージャーも通さずに直接本田に会いに来るとは、一体どんな用件なのだろう?
本田は、なんともいえない嫌な胸騒ぎを感じた。
とりあえず、相手が相手だけに無下に断る訳にもいかない。本田は、岩本に部屋をひとつ確保して、大俵をそこに案内しておくように命じた。
「分かりました。確か控え室の空きがあったと思いますから、そこへご案内しておきます。しかし、一体何の用なんですかね?」
「どうせ、ろくな用じゃねぇだろ!」
うんざりした表情で、本田はくわえていた煙草を灰皿へと擦りつけた。
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