ヒット・パレード
薄暗い照明に煙草の煙が揺らぐこの店内の壁には、ビートルズ、ツェッペリン、ディープパープル、ストーンズ………世界のロックシーンを彩ってきたビッグバンドの名盤のアルバムジャケットが、そこかしこに飾られていた。
よく見ると、その中にはいくつかの日本のバンドのジャケットもあり、トリケラトプスのアルバムもその中に含まれていた。
本田がカウンターの一番奥の席に座ると、陽子もそれに倣って彼の隣に座る。
「あれ、こりゃ珍しい。本田君じゃない」
カウンターの中から本田に声を掛けてきたのは、ロックというよりはジャズかクラッシックの方が似合っていると思わせるような、紳士的な印象の初老の男だった。
「マスター、ご無沙汰してます」
そう言って、本田は初老の男に軽く頭を下げた。どうやら、本田とこのマスターと呼ばれた男とは面識があるらしい。
「お隣は、本田君の彼女?」
「いえ、彼女だなんてぇ~~」
「職場の部下です。ただの部下」
マスターの質問に陽子が照れる間も無く、本田が間髪入れずにそれを否定する。そんなに即座に否定しなくても、と、陽子は頬を膨らませて横を向く。その後で改めてマスターに自己紹介をした。
「そうか、ヨーコさんと言うのか……いい名前だ」
「そうですか、ありきたりな名前ですよ?」
マスターの台詞に陽子が謙遜してみせると、彼はその理由についてこう言った。
「いやいや、ヨーコと言えばあの《ヨーコ・オノ》と同じ名前だ。この世界の者としては、拝みたくなるような素晴らしい名前だよ」
マスターは、そう言って穏やかに笑ってみせた。
「本田君はバーボンで良かったかな?」
「ええ、君は何を飲む?」
「それじゃ、私はビールをお願いします」
カウンターテーブルの二人の前に、ショットのバーボンそしてビールが置かれると、本田と陽子はそれを手にし「お疲れ様」とグラスを合わせた。
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