ヒット・パレード



「それにしても、大きな音ですね。いつもこんな感じなんですか?」


いつもの話し声より少し大声で、陽子がマスターに尋ねると、マスターは穏やかな笑顔で答えた。


「週末で少し盛り上がっていたものでね。確かに少々音量が大きいな、これじゃ会話がし辛い」


そう言って、マスターはグラスを拭いていた手を休め、カウンターの奥にある音響機器へと手を伸ばした。それと同時に店内に鳴り響いていたロックサウンドの音量が、徐々に控えめになっていくのが分かる。


陽子は、自分の後ろの方で陽気に踊っているモヒカン男達から苦情が出ないかと少し心配になったが、モヒカン男はまるでそれに気付かないように、相変わらず奇声を上げながらリズムを刻み、愉しそうに踊っていた。


きっと、既にバーボンのボトル一本を空けている彼等の頭の中では、店内でかかるロックのビートとは他に、別のサウンドが鳴り響いているに違い無い。


ロックBARなる、こういった店に入ったのは陽子は初めてだった。確かに酒を飲んで陽気に騒ぐのに、ロックという音楽のジャンルは案外うってつけなのかもしれない……と、そのモヒカン男達の踊る姿を見ていると、妙に納得してしまう。


入店前は、その店の雰囲気に眉をひそめていた陽子だったが、一杯目のビールグラスが空になる頃には、彼女の持ち前の好奇心も手伝って、陽子の心中にそんな偏見は微塵も残っていなかった。



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