ヒット・パレード
「マスター、このお店はもう古いんですか?」
「そうだねぇ………もう、35年になるかな」
陽子の問い掛けに、マスターは穏やかな笑顔で答えた。
「へえーー、そんな前から!それじゃ、由緒正しい立派な老舗なんですね」
「ハハハ、この店が由緒正しいなんて言われたのは、オープン以来初めてじゃないかな」
陽子の後ろで踊っているモヒカン男達の方へ目をやって、マスターは愉快そうに笑った。
「でもマスター、俺のようなロック好きの人間から見れば、この店はある意味《聖地》みたいなものですよ」
陽子とマスターの会話に、本田が入る。その口振りは、あながちお世辞や冗談でも無いという風な、心のこもった言い方だった。
「そう言えば、本田君が最初にこの店にやって来たのは20年位前だったかな………ずいぶん尖った金髪の青年だったな」
「え"っ!!金髪の青年ーーーっ!」
マスターが発したその単語に、思わず口に含んだビールを吹き出す陽子。そして、隣の本田の困惑した表情を見て、ゲラゲラと大声を出して笑い出した。
「金髪ーーーっ!本田さんがーーっ!ヒッ、ヒイィィーーー可笑しいーーーっ!」
「陽子、お前笑い過ぎだ!
マスター、俺の昔の話は勘弁して下さい………」
「ヒッ、ヒイィィーーー!苦しい!」
「おい!いい加減にしろ!いつまで笑ってんだお前はっ!」
「だって…金髪ーーーっ!本田さんが金髪ーーーっ!」
当時の本田の髪型は、金髪といってもそこまで派手では無い、例えるならサッカーの本田圭佑のような感じだったが、今、陽子の頭の中に浮かんでいる本田はドラゴンボールのスーパーサイヤ人のように四方八方に放射線を描いたド派手な金髪だった。
そんな頭の本田が、鼻ピアスのおまけ付きで、陽子の頭の中で中指を立ててポーズをキメている。
「ありえねーーーっ♪」
「おい!」
酔いのせいなのか、それとも恥ずかしさのせいなのか、本田は真っ赤な顔で陽子を叱り飛ばした。
そして、そんな二人のやり取りをマスターは愉快そうに眺めていた。
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