ヒット・パレード



Zip………それが、今ステージに上がっているバンドの名前だった。


ボーカル、ギター、ベース、ドラムス、キーボードの五人編成。そのうちキーボードは女性が担当していた。平均年齢は22歳、まだプロデビューはしていないらしい。


マスターの話では、今月いっぱいまでこのZipがステージに立つという事だった。


「聴いた事の無い曲ですね。オリジナルですか?」


「うん、彼等はプロを目指しているからね。これは彼等のオリジナルだよ」


陽子の質問にマスターが答える。そして、次にマスターから本田へと質問が投げ掛けられた。


「本田君はどう思う?このバンド」


本田は、くわえていた煙草を灰皿に擦りつけながら、マスターの質問に真摯に答えた。


「曲は意外といい。覚え易いし、メリハリもある………ただ、音が粗い。まだ若いからという事もあるが、もう少し場数を踏ませてやりたい………というところですかね」


その時の本田の顔は、バーに飲みに来た客というよりは、テレビ局の音楽部門プロデューサーの顔をしていた。


「成る程、確かに言われてみればそんな感じもするかな」


マスターは、本田のZipへの評価に納得したように頷いていた。そして、陽子にこんな事を言った。


「本田君のバンドを見る目は大したものだよ。この店のステージからは何組かのメジャーデビューしたバンドもいるが、そのいくつかのバンドの才能も彼は見抜いていたからね」


「私も、そう思います」


陽子もまた、本田の音楽才能を見抜く力を、一緒にしてきた仕事の場で嫌という程思い知らされてきた人間のひとりだった。


「因みに、ヨーコさんは彼等の演奏をどう見るのかな?」


マスターは、今度は陽子に対し本田にした質問と同じ事を訊いた。彼女がこのバンドにどんな評価をするのか興味がある、といった顔だ。


「私は……難しい事は分かりません。でも、彼等を見ていると………


本当に楽しそう!心からロックを演奏する事を楽しんでいるんだなぁって思います。見ているこっちも楽しくなっちゃう」


「なんじゃそりゃ?」


隣でそれを聞いていた本田が、少し呆れた顔で言った。


「お前、まかりなりにも音楽部門のディレクターなんだからな!もうちょっとましなコメントを……」


本田が、陽子にコメントのダメ出しをしている間、マスターは二人のやり取りを横目で見ながら、相変わらずの穏やかな笑顔で、陽子の言葉を復唱していた。


「楽しそう………か……」



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