ヒット・パレード



Zipの演奏を何曲か聴いていた陽子が、何かを思い付いたようにマスターに向かって尋ねた。


「マスター、変な事を訊いてもいいですか?」


「変な事って、何かな?」


どうしてこんな事を訊きたくなったのか、陽子にも分からなかったが、Zipの演奏を聴いているうちになんとなく興味を持った事柄が陽子にはあった。


「マスターは、この店がオープンして以来ずっとこうしたライブをやってきたと聞きましたが、その35年間このステージに立ったバンドで、マスターが一番凄いと思ったバンドってどんなバンドでしたか?」


このステージからは、いくつかのバンドがメジャーデビューしていったとマスターは言っていた。もしかしたら陽子の知っているバンドの名前もその中にあるかもしれない………といった、軽いミーハーな気持ちから陽子はそんな質問を投げ掛けてみたのだ。


そして、陽子のそんな質問に答える為に、マスターは何かを思い出すように天井のある一点を見つめていた。


「思えば35年間、何百というバンドがこのステージに立った。その中には、プロも顔負けの実力を持ったバンドも沢山いたが………あの時程、その存在に驚かされたバンドはいなかった。演奏技術、パワフルさ、曲の構成、そしてステージパフォーマンス、どれをとっても全てがパーフェクトだった………あんなバンドが日本に、しかもまだアマチュアで存在していた事が、私にはとても信じられなかったよ」


マスターは、遠い昔を懐かしむように瞳を細めてそう語った。


「そんなに凄いバンドがいたんですか!それっていったい………」







「デビュー前のトリケラトプスですね?………マスター」


陽子がその名前を訊く前に、本田がマスターに言った。


「そうだ。私がまだこの店を始めたばかりの頃だったな………」


そう呟いたマスターの表情は、どこか懐かしそうでもあり、また、どこか寂しげでもあった。



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