ヒット・パレード




「はっきり言って、ドラマではそれほど数字が獲れるとは思いませんな!」


《特番には長時間ドラマで》というドラマ部門の山下プロデューサーの提案を最初に真正面から否定したのは、報道部門のプロデューサーで山下とは同期入社の古谷だった。


「それはどういう意味だよ、古谷!」


あからさまな否定に顔をしかめた山下は、その理由を古谷に尋ねた。


「まず、ドラマというものは、途中から観ると内容が全然分からなくて全く面白くない!……つまり視聴者は最初の方を観逃してしまったら、もう途中からは観てくれないという事だよ」


「ああ、それは言えてますね。小説なんかも途中から読む人間なんていませんからねぇ」


古谷の発言に、スポーツ部門の松本プロデューサーが加勢する。


「そんな心配は要らない!面白いドラマなら、視聴者は最初から観るだろっ!」


「ほう、面白いドラマねぇ……ちなみに山下さんはこの企画にどんなドラマをぶつけるおつもりなんですか?」


「そうだな……詳細はまだ決まっていないが、長時間なら戦国時代物か幕末物というところか……」


「ああ、それは駄目だな……」


新たに話に割って入って来たのは、バラエティー部門のプロデューサーである田中だ。


「駄目って、どういう事だよ!
幕末物の長時間ドラマは特番の王道だろうが!」


憤慨する山下に、田中は冷やかな顔で答えた。


「何故って、一概にそういうドラマを好んで観るのは高齢者の方が多いでしょ?高齢者は早寝早起き。午前零時に起きてなんかいないですよ」


「うぐっ……」


痛いところを突かれ、顔を歪める山下。


それにしてもさっきから、寄ってたかってドラマ部門への集中攻撃である。


どうして俺ばかりが責められなきゃならんのかと、山下は苛ついた様子で火のついた煙草を灰皿へと押し付ける。


《出る杭は打たれる》の例えでは無いが、前評判で一番有力視されていたドラマ部門が、暗黙のうちにこの会議で他部門の標的にされているのは、言うまでもない。


ただ、そんな中、音楽部門の本田だけはこのドラマ部門のネガティブキャンペーンには加わらなかった。


相手の不備を突いて自分がのしあがる、そんなやり方は自分の流儀に反する。本田は、そんな風に感じていたからだ。


一人孤立した山下は、何か突破口は無いかと思案に暮れた。



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