ヒット・パレード



「ちょっと待って下さい!それじゃまるでバラエティ番組じゃないですか!そんな変更は、私にはとても承服出来ません!」


本田は声を荒げて反対するが、相田にとってはライブの音楽的な意義云々などよりも、番組の視聴率の方が大事に決まっている。


「バラエティ結構じゃないか。私は数字が獲れるのなら、それで構わない。トリケラトプスの出演が無理なら、やむを得ないだろう」


相田は、平然とそう言ってのけた。


「トリケラトプスは絶対にステージに上げて見せます!ですから、ライブ内容の変更はもう少し待って下さい。お願いします局長!」


本田も必死に食い下がる。彼が今それを認めてしまえば、ライブ内容の変更の話は、更に加速して現実のものとなってしまうであろう。


だが、相田としても社運を懸けたこの特番を低視聴率で終らせる事は断じて許されない立場の人間である。不確定なトリケラトプスの出演交渉の成立を待つより、確実な道があればそれを選ぼうと考えるのもいた仕方が無いと言えた。


内容の大幅な変更ともなれば、それなりに準備も必要となる。時期を誤れば、それさえも実現不可能になるかもしれないのだ。


「しかしね本田君、絶対などと言ってもあてにはならんよ。もし彼等が見つからなかったら、どうするんだね?」


相田のその問い掛けに、本田は強い決意を秘めた表情で力強く言い放った。


「その時は、私のクビを切るなりなんなり好きにして下さい!」


まさか、本田がそこまで言うとは思っていなかったのだろう……自らの職を賭すとまで言うあまりの本田の熱意に、相田もそれ以上の強硬な態度をとる事を躊躇した。


暫く瞑目し思案すると、相田は本田に向かって告げた。


「あと二週間だ………それまでにトリケラトプスの出演交渉が成立しない時には、ライブ内容の変更に取りかかる。僕に出来る譲歩は、そこまでだよ本田君」


本田にとって、それはかなり厳しい条件であった。しかし、それを飲む以外に本田に残された選択肢は無い。


「わかりました。全力を尽くします」


短く返答し、厳しい面持ちで局長室を出ようとする本田の背中越しに、相田から思いがけない言葉が掛けられた。


「僕だって辛い。彼等のステージ、本当はとても楽しみにしていたんだ」


かつては、トリケラトプスを熱狂的に追いかけた事もあったという相田。


それは、テレビNETのテレビ局長という重責を一身に背負わなければならない男の、心から発せられた偽りの無い本音であった。



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