ヒット・パレード
局長室から出て来た本田の表情には、苦悩と焦りの色が滲み出ていた。
トリケラトプスとの出演交渉の期限があと二週間だと区切られたところで、依然として彼等の足どりは掴めていない。
元々、トリケラトプスはデビュー当時から謎の多いバンドであり、メンバーのプライベートな情報が乏しい事も今回の捜索をより困難なものにしていた。
(本当に間に合うのだろうか………)
いいようのない不安が、本田の心にずっしりと重くのしかかる。
そんな気持ちを抱いたまま、自分のデスクに戻って来た本田の目に、今日も朝からずっと電話での捜索を続けている陽子の姿が映った。
「わかりました……お手数をおかけして申し訳ありません。では、失礼致します……」
辛辣な表情で受話器を置く陽子。その様子を見れば、本田がその結果を訊くまでも無い。
相田局長から告げられた事を陽子に話しておくべきか、本田は迷ったが、考えたあげくその事は自分の胸の内だけに留めておこうと決めた。
「いやぁ、参りました。本当に見つかりませんよ森脇 勇司。でも心配しないで下さい、本田さん!日本中の建設会社に電話してでも、絶対捜し出して見せますから!」
本田の顔を見るなり、陽子がそう強がって見せる。
そんな陽子の言葉を受けて、本田は穏やかに微笑んで見せた。
正直、今の本田の沈んだ心には、こんな陽子の明るさが何よりの救いになる。
(ギリギリまで、踏ん張ってみよう。諦めるのはまだ早い………)
さっきまで本田の心に重くのしかかっていた何かが、ほんの少しだけ取り除かれた。そんな気がした。
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