ヒット・パレード
「全くもう………全然進まないじゃないのよ………」
最初に並んだ位置からは100メートル位は進んだだろうか。それでもまだ、先頭の車まで100メートルはあるだろう。
右足でブレーキペダルを踏みながら、空いている方の左足で運転席の床をドンドンと踏み鳴らす。
陽子がいつもより苛ついているのは、この工事渋滞のせいばかりでは無いだろう。3ヶ月経っても未だに任された仕事の成果を出す事の出来ない自分に対する憤慨も、今の陽子の苛立ちを大きくしている原因となっているに違いない。
やがて、陽子の赤いフィットの横を対向車の一団が通り過ぎた後、前方の車が少しずつ動き出した。
「よーーーし!行け行けーーー!」
その後ろに着きながら、陽子はまるで競馬で自分の賭けた馬の応援でもしているかのように、ハンドルを連打して叫んだ。
「ほらっ!早くしないとまた停められちゃう!」
そして、お願いだから私のとこで停めないでと、心の中で旗振りオヤジに念を飛ばす。勿論、実際にそんなものが交通整理の男に届く訳は無いのだが。
一台、そしてまた一台と、車は交通整理の男の横を通り過ぎていく。
陽子の前にいる車はあと三台………ゴールは目の前。確率的に考えても、まさか二度とも自分のところで停められるなんて不幸な事は無いだろうと、陽子は思っていた。
のだが………
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