ヒット・パレード
「これで二回目よ、二回目!いつも私で停められるなんて、悪意があるとしか思えないわっ!」
『二』を表す、右手の人差し指と中指を旗振りオヤジの前へと突き出して、そんなのありえねーだろ!と、えらい剣幕で詰め寄る陽子。
ところが、それに対して旗振りオヤジの方は、怯むどころか、陽子の神経を更に逆撫でする事を口走ったのだ。
「ああ、あん時の威勢のいい赤いフィットの女!思い出したよ。どうした、あの時はションベン漏らさなかったのか?」
「あの時もアンタだったのかっ!
てか、オシッコなんて漏らしてないわよ!」
「まあまあ、そんなに眉間にシワを寄せてたら、せっかくの美人が台無しだぜ」
度重なる旗振りオヤジの無礼な発言に、陽子もついつい大声になってしまう。
「バカにしないでよっ!」
少しは申し訳なさそうな顔でもすればまだ腹の虫も収まるというものだが、この完全に人を食った旗振りオヤジの態度は、陽子の怒りをますます巨大化させるばかりである。
「大体、何カ月同じとこ工事してんのよ!国家予算の無駄使い!この税金ドロボー!」
「そんな事は、国のお偉いさんに言うんだな。俺だって税金払っているんだぜ」
陽子がああ言えば、旗振りオヤジはこう言う。そんな二人のやり取りを、陽子の車の後ろに着いていた車のドライバー達は、ある者は好奇の目で、またある者は呆れたような眼差しで見物していた。
いつの間にか、対向車の一列はとっくに通り過ぎており、今度は陽子達の車線が通る順番なのだが、いつまで経っても車が来ない事を不審に感じた現場の同僚が、無線で旗振りオヤジに催促をしてきた。
『ちょっと、どうなってんの?
こっち全然来ないよ、森脇さん!』
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