ヒット・パレード
「いや~悪い悪い、ちょっとトラブってさ、今すぐにそっちへ誘導するから!」
無線の通話ボタンを押しながら、そう同僚に答えた旗振りオヤジは陽子の方へと向き直り、まるで野良犬でも追い払うように右手の甲を上下に振って自分の車へと戻れと促した。
「ほら、遊びはもうおしまいだ!さっさと車に戻って………」
そう言いかけて陽子の顔に目を移した時、旗振りオヤジははじめて陽子の異変に気が付いた。
「ん?どうかしたのか………」
つい先程の彼女の様子とは、明らかに違う。陽子は、まるで悪魔か何かにでも憑依されたように地面の一点を見つめて、よく聞き取れないような小さな声で呪文のように何かブツブツと唱えていた。
「森脇森脇森脇森脇森脇森脇森脇森脇森脇森脇森脇森脇………………」
「おい、いったいどうした?気分でも悪いのか?」
陽子の変貌ぶりに、只ならぬ何かを感じた旗振りオヤジは、心配そうな表情で俯いた彼女の顔を覗き込む。
その瞬間。
「もりわきいいいいいいいいっ!」
「うわああああああああっ!」
大きなパッチリした目をことさら大きく見開いて、まるで人間に襲いかかるゾンビのように飛びついてきた陽子に、旗振りオヤジは腰を抜かすかと思うほど驚いて、地面にべったりと尻餅をついた。
勢い余って、陽子がそれに覆い被さる。
「バカヤロウ!びっくりするじゃねぇかっ!」
「アナタ……森脇さんなの?」
伝説のロックバンド、トリケラトプスのボーカリスト森脇 勇司と陽子との、これが最初の出逢いだった。
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