ヒット・パレード



特番で放送するドラマの題材。


まさか、そんな事をこの会議の中で問われるとは思わなかった。


そもそも、ドラマを12本立てにする事だって、たった今しがた考えついたばかりである。ましてや、その題材についてなど山下が用意している筈が無い。


「どうした、山下」


「あ、あぁ………」


山下の額に脂汗が滲む。


今のこの会議の流れからいって、この質問の解答いかんによっては、開局記念番組のドラマ採用の目は無くなる。


(ちくしょう、なんで俺がこんな目に………)


会議が始まる前までは、特番ドラマは本命中の本命……だった筈なのに、いったいどこでどう間違ってこんな展開になってしまったのか?


「どうした、山下。答えられないのか?」


「うるさい!ちょっと待ってろ!」


皆の視線を一心に浴びて、山下は己の思考回路をフル回転させた。


(何か無いか……何か視聴率の獲れそうな人気のある題材………)


(サスペンスか、コメディか、それともホームドラマか……いや、そういう大雑把なものではなく、もっと具体性のあるもので無ければこの場を納得させるのは難しい………)


瞑目して思いを巡らせる山下。
すると、そんな山下の脳裏に、ふと昨日の彼の自宅での娘とのやり取りが浮かび上がった。




昨日、彼が珍しく早い時間に帰宅して家族揃って食卓を囲んだ時の事である………


「おい、柚菜!食事中にスマホいじるのは止めなさい!」


山下は、席の向かいで食事を摂りながら、器用にスマホの操作に夢中になっている小学六年生の娘を注意した。


「どうせ、ゲームでもやっているんだろ。そんなの、食事の後だって出来るんじゃないのか?」


「ゲームじゃないもん!」


娘の柚菜は、注意した山下に目を向ける事もなくそう口答えをした。


「ゲームじゃなきゃ何だ!どうせくだらないものだろ!」


そんな山下に、少しも悪びれる事もなく娘の柚菜はスマホの画面を向けて微笑んで見せた。


「携帯小説。これって、今若いコの間ですごく人気があるんだよ」


その、娘のスマホの画面に映し出されていた携帯小説のタイトル……


それが今、山下の頭の中にぼんやりと浮かび上がっていた。






『これって、今若いコの間ですごく人気があるんだよ』




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