ヒット・パレード
森脇と前島は、家庭の事情から幼少期を同じ施設で過ごした幼なじみである。そんな理由から、メンバー内の関係も良好であるトリケラトプス四人の中でも、とりわけこの二人の関係は親密であった。
そんな森脇と前島のやり取りを見て、マスターが冗談交じりに二人を冷やかす。
「相変わらず仲がいいねぇ~。二人とも、もしかしてコッチの方だったりして」
そう言って、右手の甲を左頬につけながらウインクして見せる。そのマスターの似合わない仕草に、森脇は口に含んだバーボンを危なくカウンターにぶちまけそうになった。
「ぶはっ!……冗談じゃないですよ、マスター!俺にそういう趣味はありません、俺はいたってノーマルですから!」
森脇が間髪入れずに否定すると、前島も慌ててそれに倣う。
「俺だって!マスター、俺の恋人はギターだけですから!」
「いや晃、お前の場合のそれはノーマルじゃねぇだろ?そういうのは《変態》って言うんだ」
「へん!それを言うなら《天性のギタリスト》と言って欲しいね!」
「はあ?《天然のギター馬鹿》の間違いじゃねぇのか?」
「お前なっ!」
そんな漫才のような二人のやり取りに、マスターは満足そうな微笑みを浮かべた。
「まったく、スターになっても変わらないな、君達は。それに、こうして売れっ子になっても君達が店に飲みに来てくれて、僕としても嬉しいかぎりだよ」
「何を言ってるんですマスター、俺達がデビュー出来たのも、ひとえにこの店のステージがあっての事ですよ。トリケラトプスはこれからもずっとマスターについて行きます!」
「その通り!トリケラトプスの原点は、このレスポールのステージですから!」
示し合わせたように、森脇と前島の目が自然とこの店のステージに注がれた。
アマチュア時代の懐かしい思い出を胸に、まだ開演前の無人のステージを暫く眺めていた二人。
しかし、そんな心地よい雰囲気を無神経にぶち壊す者が現れた。
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