ヒット・パレード
喧嘩にも、センスというものがあるらしい。
あっという間にスコーピオンの四人を倒した森脇と前島の二人は、息ひとつ切らさずに涼しい顔で、床に転がっている戸塚を見下ろしていた。
「お前さ、トリケラトプス出された事恨んでるみてぇだけど、ありゃあ自業自得ってもんだからな。やる気の無い奴は、ウチには必要無い!俺達を恨むのは筋違いってもんだぜ!」
よろけながら、やっとの事で立ち上がる戸塚の顔には、喧嘩でも一方的にやられるばかりで森脇達に一矢も報いる事が出来ない悔しさが滲み出ていた。
「どうする、まだやるのか?」
「クソッ!!覚えてろよ、お前らっ!」
この状況で、もうひと悶着仕掛ける程の根性は、戸塚だって持ち合わせてはいない。
森脇を睨みつけ、精一杯の捨て台詞を吐くと、戸塚はカウンターにあった御絞りで鼻血の滴る顔面を押さえながら、メンバーを引き連れ逃げ出すようにレスポールを出て行った。
スコーピオンがいなくなり、店内はようやく平和を取り戻すが、床にはまだ割れたビール瓶の欠片やら食べかけのピザやらが散乱している。
「晃ぁ~~、お前散らかし過ぎ!」
喧嘩するなら、俺のようにスマートにやれよ。とでも言いたげに、森脇が前島を睨みつけるが、前島はそんな事にはお構い無いといった顔だ。
「へへっ、どうせやるなら派手にやらねぇとな♪」
などと、一度はおどけて言った前島だったが、カウンターの中で呆れた顔で腕組みをしているマスターと目が合ったとたん、直ちにその態度を改めた。
「すみませんでした、マスター!今すぐ片付けますので!」
前島は、慌てて床に散らばったガラスの破片を拾おうとするが、それはマスターに止められた。
「いいから、前島君。そんな事をさせて、天才ギタリストに指でも怪我されたら敵わない………それより、困ったな」
「困ったって、何がです?マスター……」
どうやら、店の散らかり具合に困っている訳では無いらしい。森脇がその理由をマスターに尋ねると、マスターは人差し指でこめかみを掻きながら、少し言い辛そうにこんな事を言った。
「実はね……今夜のステージ、スコーピオンが演る予定だったんだよね………」
そのスコーピオンは、たった今森脇と前島の二人がコテンパンにやっつけて店から追い出したばかりである。
「そりゃまた……何と言ったらいいか………」
あまりのバツの悪さに、後の言葉が思いつかない森脇。
しかし、そんな時だった。
「心配いりませんよ、マスター!」
満面の笑みをその顔に浮かべ、前島がその解決策を提案するのだった。
「スコーピオンなんかより、もっとスゲ~バンドがいるでしょ!マスターの目の前に!」
それは言うまでもなく、森脇と前島自身の事であった。
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