ヒット・パレード



急遽決まった日本ロック界のトップスター、トリケラトプスの森脇 勇司と前島 晃の登場という思いがけないサプライズステージに、レスポールの客席はざわついていた。


森脇達が古巣レスポールでこのステージに上がるのは、プロデビュー以来およそ三年振りになる。


そんな懐かしさを噛みしめながら、前島は店から借りたギブソンのレスポールを肩から掛け、念入りにチューニングを施す。


一方の森脇は、ステージ中央に配置されたドラムセットに腰掛け、バスドラムのペダルの感触をチェックしていた。どうやら、今夜は残りのメンバーの穴を埋めるべく、ドラムを叩きながら唄うつもりでいるらしい。


「おい、勇司。お前、タイコなんて出来るのかよ?」


「あ?……まぁ~テキトーだけどな。タイコが無ぇとカッコつかねぇだろ?
少なくとも、スコーピオンのドラムよりはマシだぜ♪」


「ハハハ、そりゃ違い無ぇ♪
じゃ、一発派手にぶちかましてやるか♪」


そう言って、前島はニカッと森脇に笑いかける。『一発派手にぶちかましてやる』は、演奏前の前島の口癖である。


一瞬の静寂。


そして次の瞬間、寸分狂わずに森脇の持つスティックと前島のギターのストロークが同時に振り下ろされ、いきなり演奏が始まった。


カウントも無しに、いきなりこうも見事に息を合わせられるのは、さすがと言わざるを得ない。


ステージのトップを飾るその選曲に、客席の歓声はよりいっそう大きくなった。



レッド・ツェッペリン《胸いっぱいの愛を》



かつてトリケラトプスがアマチュアだった頃、レスポールのステージの一曲目で演奏されていた懐かしいナンバーだった。



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