ヒット・パレード
「何しやがんだあああっ!てめえはあああっ!」
男のナイフは、無惨にも前島の左手の甲を貫いていた。
苦痛に歪んだ表情で膝を折り、その場に崩れ墜ちる前島。
その傷口からは鮮血が止めどなく流れ落ち、路面の水溜まりをしだいに赤黒く染めていく。
目的を果たした男はその感情の高ぶりなのか、それとも全力で走ったせいなのか、ゼイゼイと息を荒げていたが、それでもこの場に留まってはいられないと再び走り出した。
「ちょっと待て、おいっ!」
森脇が急いで男に飛び付こうとしたが、辛うじて掴んだ男のレインコートの端は、雨で滑って森脇の手からスルリと抜けてしまった。
「てめえ!待ちやがれっ!」
そう叫び、男を追いかけた森脇だったが数メートル走ったところでそれを思いとどまった。男の事よりも今は傷を負った前島の方をなんとかしなければならない。
すぐに引き返し、前島に声を掛ける。
「おい、大丈夫か晃!」
「どう見ても大丈夫じゃねぇだろ!」
苦痛に耐えながらも気丈におどけて見せた前島だったが、傷口からの出血はかなり酷い。それにギターリストにとって、手は最も大切な部分である。一刻も早く医者に診せなければならない。
「待ってろ!今、救急車呼んで来るから!」
そう叫び、森脇は近くの公衆電話に向かって走って行った。この頃、携帯電話はまだ重量が3キロもあるショルダータイプの物が最新型で、世の中には殆ど普及していなかった。
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