ヒット・パレード
「分かったよ、勇司。ただひとつだけ頼みがある」
相変わらず壁の一点を見つめたまま、前島が言った。
「なんだ?」
「俺がギター弾けなくなった事は、マスコミには伏せてくれないかな?トリケラトプスの最後にそんな格好悪いオマケは付けたくないんだよ」
「分かってるよ。病院にも警察にも今回の事は伏せて貰うように頼んである」
きっと、前島ならそう言うであろうと森脇には予想がついていた。だから既にその為の根回しは、可能な限り慎重に動いていたつもりである。
「そうか、悪ぃな。勇司」
「何言ってんだ。その位の事はさせてくれよ」
一通り必要な事を話して、森脇は前島のマンションを後にした。
「それじゃ、俺帰るわ。また来るからよ」
「ああ、そうだ勇司。今度来る時にはジャック・ダニエル買って来てくれよ。ビールじゃ全然酔えなくてよ」
別れ際には、そんな会話を交わした。
それから、森脇はほぼ毎日のように前島のマンションを訪れた。
前島は、変わらずいつも部屋の隅の同じ場所に、背中を丸めて座っていた。
森脇は、必要な食料品や酒や煙草を買い揃え、散らかった部屋を少しずつ片付けて帰って行く。
そんな日々の繰り返しが何日も続いていた。
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