ホルケウ~暗く甘い秘密~
「誘ってくれてありがとう。でも、部活には入らない予定なの。ごめんね」
微笑し、しかしはっきりと断ったりこを、まなは胡散臭げに見つめた。
一体自分は、彼女にどんな印象を与えているのか。まなから漂う警戒感に、りこも自然と身構えてしまう。
「そうなんだー。残念だね、森下、隼人」
「春山、気が変わったらいつでも入部してくれよ」
相変わらず冷めた目でりこを見るまなと、尻尾を振る犬のごとくりこに人懐こい笑顔を振り撒く森下。
なんなんだ。この、気持ち悪いくらいの温度差は。
(クラス運無いな、私……)
これから1年半、楽しい思い出などとてもじゃないが、作れないだろう。
もとより受験勉強に専念するために引っ越したとはいえ、華の高校生活がセピア色に染まっていくのは悲しい。
(我慢だ、私。聖ルチアに合格してまた東京に戻れば、友達に会ったり好きな勉強したり、薔薇色の生活が送れる。私の青春は大学で始まるんだから)
祖父に勉強を見てもらいながら、これから1年半、ひたすら目立たず、騒がず、問題を起こさず、受験勉強だけに専念していよう。
固い決意を胸に、りこはその後居心地の悪さを無視して、午前中が終わるのを待った。