ホルケウ~暗く甘い秘密~
(なるほど、こういう状況か…………)


気づかないところで、山崎に苦しい立場を強いていたことに、りこは目頭が熱くなった。

今の気持ちに味をつけるとしたら、とてつもなく苦い味だ。


「山崎って女子には甘いじゃん。変に干渉してくる他の先生方よりはよっぽど良いよ」

「それもそうだね。そろそろ行こうか」


玄関前にたむろしていた女子たちがいなくなってから、りこは憂鬱な気持ちを抱えながら下駄箱を開けた。


(やっぱりね…………)


上履きの中には、夏の風物詩の一つ、セミが入っていた。

モゾモゾと動くその生き物は確かに気持ち悪いが、ゴキブリに比べたらなんてことはない。

靴から出して、玄関の隅に放しておく。

教室に入り、誰とも挨拶することなく自分の席につき、りこはバッグからノートを取り出した。

窓側の一番前にある席は、テスト中は外の景色を独り占め出来る。

入道雲を眺め、少し心が落ち着いてから、りこは最後の復習をはじめた。
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