ホルケウ~暗く甘い秘密~
「ごめん、お待たせ!」


結局待ち合わせには少し遅れてしまった。

数年ぶりに会った友人の美佳は、だいぶ背が高くなった。

色白でスレンダーな、儚げという言葉がぴったりの美人である。


「りこ、久しぶり」


青いフレームの眼鏡が知的な雰囲気を醸し出す彼女だが、笑えばえくぼが出来て、いきなり親しみやすい印象になる。

まったく変わった様子のない旧友に安堵し、二人は近況報告にふさわしいフードコートへと向かった。



赤いピエロがモデルキャラクターの世界的ハンバーガーショップで、バニラシェイクを2つ注文する。

なるべく端の椅子に座り、シェイクをすするりこを、美佳は不思議そうな目で見つめた。


「りこ、あんたいつからマック派になったの?モス派じゃなかった?」

「釧路まで出ないとモスってないらしいから。バニラシェイク飲みたくなったら、ここしかないのよね……」

「あーね。いや、それならミスドのほうが良くない?あそこのバニラシェイク、あたしけっこう好きなんだけど」

「ここのミスド、バニラシェイクないよ」

「うっそ!やだ、ショックー」


中身のない、とりとめもなくフワフワとした会話は、基本的に苦手なりこだが、幼なじみの美佳が相手だとあまり気にならなかった。

思わずバニラシェイクで話が盛り上がってしまったが、そろそろお互いの近況報告をしたいところだ。

何から聞こうか、頭の中で質問を次から次へと思い浮かべながら顔をあげたりこだが、美佳の少し後ろに座る人間を見せて、バニラシェイクを吹きそうになった。


「ぐッ、げほッ、げほッッ」


いきなり喉をつまらせ、テーブルの上で苦しみはじめた友人を目の当たりにし、美佳はりこの隣に移動し、オロオロしながら背中をさすった。


「ちょっと大丈夫?いきなりなしたのよ?」

「ん、げほッ。だ、大丈夫……。シェイクが変なところに入っちゃっただけ」


美佳には笑顔を向けるが、彼女が水を取りに行った隙に、りこは般若のごとき怒り顔を前方に向けた。


(玲、なんでいるのよ!!)


今にも牙を向きそうなりことは対照的に、玲は爽やかな笑顔でこちらを見ている。

美佳が戻ってきてりこに水を差し出すが、りこのほうはというと、頭の中でサンドバッグを殴り付けていた。


(帰るときに連絡するんじゃなかったの!?あれじゃ、まるでストーカーじゃない!)
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