ホルケウ~暗く甘い秘密~
仮面カップルを承諾して、りこは違う意味で後悔した。

常に玲に監視されていなければいけないのは、かなり辛い。そして気分が悪い。

いまやりこの中では、シフラやボロディン族に対する恐怖よりも、玲に対する苛立ちのほうが強かった。


「ねえりこ、好きな人出来た?」


(このタイミングでその質問来るか!)


ズコーッとシェイクを流し込み、ドンッと派手な音をたてて、空になったコップをテーブルに叩きつける。


「いる。腹立たしいことに」

「え、嘘!マジで?恋愛に興味なかったあんたが!?」


どうやらいないという返事を想定しての質問だったらしく、聞いた当の本人は目を剥いて驚いていた。

その失礼な反応に、りこは眉根を寄せた。


「ちょっと、なんでそこまで驚くのよ」

「だってねえ、誰かを好きになるあんたが想像出来ないんだもん。それより、教えてよ。どんな人?今二人の関係は?」


もともと美佳には、ゴシップ好きな一面があった。

いつになく野次馬根性丸出しの友人を落ち着かせ、りこは若干の嘘を交えて、玲との関係を話しはじめた。


「数年ぶりに再会した幼なじみの、呉原玲」

「あー……そういや、昔同じマンションに住んでたっけ、あんたたち。それにしても、ずいぶん倍率高い相手に惚れたね」

「やっぱりモテる?」

「そりゃもう。元カノレイプ疑惑で、一部の人には煙たがられているけど、その人気は半端ないわよ」


元カノレイプ疑惑。

そういえば、そんなのもあったなぁーとりこは宙を仰ぐ。

あれはまだ玲の正体を知らなかった頃の話だ。


(今となっては、人狼の本能が暴走したんじゃないかって予想がつくわ)


ぼんやりと思考の海に沈んで行きそうなりこを、美佳は揺さぶった。


「で、今どうなってんのよ?」

「あ、ごめんごめん。うーん、順を追って説明すると、最近私ストーカーされているらしく、玲がたまたまそれに気づいたのね。それでかボディーガード役として彼氏のふりをしてもらってる」

「……は?」


怪訝な顔の親友に、りこは内心冷や汗をかく。


(さすがにこの嘘は無理がある?)


シフラのことを話すわけにはいかないため、ストーカーに置き換えてみた。
話の大筋は合っているのだから、問題はないと思ったが、甘かったか。
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