ホルケウ~暗く甘い秘密~
第4章~真実を知る狩人~
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9月1日の早朝、海間信弘は、森林公園まで足をのばしていた。
オオカミ狩りを再開した地元の猟友会に、亡くなった息子に代わり、信弘が参加したのだ。
それを黙って見ている海間兄妹ではない。
例の奇妙なオオカミ―――人狼についても調べるべく、里美と亮平はこっそり猟友会のメンバーの跡をつけていた。
「5時起きして待ち伏せ。それから尾行。俺らは探偵かよ」
朝に弱い亮平は、到着時から小さな声でぶつぶつと文句を言い続けている。
「さっきからうるさいんだけど。それより武器、忘れてないでしょうね」
「サバイバルナイフ、催涙スプレー、ロープがあれば十分だろ」
「そうね。……銃が持てたら完璧なのに」
日本では、銃所持許可証は二十歳にならないと取得出来ない。
ここで法律を犯すわけにもいかないため、二人は信弘の銃をくすねることを諦めたのだった。
「見て、あれ」
オオカミの巣窟となった森林公園は、いまや民間人は立ち入り禁止だ。
キャンプ場から奥、オオカミの目撃情報があがった東屋のある方へ、猟友会の面々を率いているのは、地元の警察官だった。
「うわ、なんかものものし……」
途中までそう言いかけた里美だが、背後に鋭い殺気を感じ、反射的に振り向いた。
亮平のほうも、なにかいることに気づいたらしい。
ジリジリと、太もものホルダーに刺してあるナイフに、指を滑らせる。
しばらく二人は、木々の奥に目を凝らした。
「リスか野うさぎだったのかな」
里美が短く息を吐いた瞬間、先ほどよりも強い殺気が里美を襲った。
その生き物が飛びかかるのと、里美が亮平の太もものホルダーからナイフを抜き取り、勢いよく降り下ろしたのは、ほぼ同時だった。
額を切られたオオカミが、低く唸りながら後ずさる。
「亮平、援護して」
いつの間にか、二人の周囲には何匹ものオオカミがいた。
「里美、さすがにこの数はヤバくね?」
少しずつ距離を詰めてくるオオカミたちに、亮平は息を呑んだ。
里美も、冷や汗をかきながらナイフを握りなおす。
「……。どれが父さんの敵か、わからない。だから、全部狩るわ」
対峙したことのない動物への恐怖よりも、復讐心が勝った里美の瞳には、恐れも迷いもなかった。