ホルケウ~暗く甘い秘密~
「お前たちのようなガキの手に負えるほど、オオカミはやわじゃない」
信弘に引き渡された二人は、気まずそうに視線を落とした。
冷たい怒りがヒシヒシと伝わってくる信弘に、いっそのこと思いっきり怒鳴られたほうがましだとすら思う。
「お前たちまで死んだら、わしや婆さんはどうすりゃいいんだ。母さんなんか、後を追って死ぬかもしれん」
しんみりとした信弘の口調に、二人は「ごめんなさい」としか言えなかった。
「まあまあ、海間さん。二人とも無事だったわけですし、反省しているようだ。それくらいにしてやりましょうよ」
信弘をなだめたのは、猟友会のメンバーを率いて先頭を歩いていた警察官だった。
赤銅色の短髪が、活発な印象を与えるその警察官は、二人に警察手帳を見せた。
「俺は湯山彰。本来なら、害獣事件は生活安全課の担当だ……。君たちのお祖父様や猟友会の方々、その他大勢のフリーランスのハンターに協力を依頼しているこの状況が、どれだけ危険なものか、今回でわかっただろう」
湯山の醸し出す圧迫感に、知らず知らずのうちに二人は息を止めていた。
警察というよりヤクザのほうがお似合いのその警察官が離れた時、二人は妙にホッとした。
「署のほうに連絡します。皆さんはこちらで待機していてください」
湯山の指示を受け、ハンターたちはオオカミの死体を一ヶ所に集めた。
その死体から流れる血の匂いに、里美は眉をひそめる。
(なんだろう……。なんか、違和感がする……)
里美の異変に気づいた亮平はさりげなく話しかけようとしたが、それに気づかなかった湯山が言葉を被せる。
「今回のオオカミ討伐にあたり、猟友会の皆様には、道警より賞状と賞金が授与されます。会長の広瀬さんは、手続きのために署までご同行願いたい。他の皆さんは、引き続き森林公園周辺のパトロールをお願いします」
湯山に引っ張られるように、広瀬はオオカミの死体と共に、彼らを迎えにきたパトカーの中へ消えた。
その様子を見送り、里美は軽く目をつむった。
(なんだったんだ?あの感じは……)