ホルケウ~暗く甘い秘密~


乱雑としたデスクの上に、湯山は目が点になった。

あらゆる書類が積み重なり、ファイルからも書類がはみ出ており、汚いことこの上ない。

おまけに、いくつかのボードにはコーヒーの染みまでついている。


(誰だこの汚いデスク!あ……。俺のだったわ)


ところどころ見え隠れする、ミミズ字としかいえない自分のサインに、湯山は引いた。


(広瀬さん帰ったら掃除するか……)


自分で汚くしておきながら、いかにも嫌だという空気を滲ませ、湯山は書類を探していた。



その時――――――――――――――――――――



耳をつんざくような、大音量で響きわたる警報の音に、湯山と広瀬は反射的に振り向いた。


「広瀬さん、そこにいろ!」


咄嗟に広瀬に指示を出し、隣のコンピューター室に飛び込み、署内に配置してある監視カメラのモニターを確認して、湯山は瞠目した。

謎の黒い影が、オオカミの死体と共に窓から落ちたのだ。

残像しか残っていないそれに、ジワジワと恐怖心が湧いてくる。

スローモーション再生でようやくわかった黒い影の正体は、さらに湯山を戦慄させた。


(人間……!?嘘だ!ありえねえ、こんな動き……!)


黒い髪、細身の体躯の男が、窓ガラスを割って侵入し、オオカミの死体を担いで逃亡するのに要した時間は、約3秒。

再生機能も追いつかないスピードで動いたからか、顔はぶれて、はっきりとはわからない。

しばらく画面を見つめ、湯山はあることに気がついた。

その男の動作が緩慢になったその瞬間、ほんの一瞬ではあったが、カメラに男の顔がはっきりと映った。

鮮やかな、妖しい輝きを放つ金色の瞳に、湯山は絶句した。

連続婦女暴行事件の犯人の特徴に、被害者がこぞって挙げていたもの。

黒髪、金の瞳の男。


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