ホルケウ~暗く甘い秘密~
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「ふーッ、危なかった」


額の汗を拳でぬぐいながら、ヒカルは唇を尖らせた。


「ちょっと油断したら、こいつらすぐ死にやがったし。あーあ、なんで俺たちがこんな苦労しているのさ。シフラ」


元は仲間だったオオカミの死体を青いごみ袋に詰め、ヒカルは巨大なリュックに押し込んだ。


「いや、まさかあそこで奇襲来るとは思わなかったからな。死体を人間の手に渡すわけにはいかないだろ?今さら感ハンパねえけど、一応俺たちの存在って人間には秘密なわけだし」


シフラも、大型の旅行カバンに仲間の死体を詰めていく。

警察署を右折し、白樺並木から森へと続く道を、二人は大きな荷物を背負いながら突っ切る。

人間の姿であっても、異常なスピードで地を蹴る二人は、さながら野性の猛獣のようだ。

時折聞こえる、小枝を踏み砕く音をBGMに、シフラとヒカルは疾走した。


「勘の良い人間は、もうとっくに俺たちに気づいているよ」


走りながら、ヒカルはぼやいた。


「だろうな。だが、姿を見られるのはまずい。それも死体はヤバい。俺たち人狼は、死後一間以内に呪いがとけて、人間の姿に戻るんだからな」

「誰かが死ぬたびに死体を回収しなきゃいけないのって、だるくね?」


小川を飛び越え、釧路方面へ続く国道沿いの山道に入ってから、シフラは短く答えた。


「だるいけど仕方ねーって。人狼の唯一にして絶対の掟なんだから」


の割には詰めが甘いよな、などと考えながら、ヒカルはさらに走るスピードをあげた。


「春山りこのほうはどうなっている?」


車が一台もないのを確認してから、シフラは国道を突っ切り、空港に続く牧草地を駆けた。

それに続きながら、ヒカルは不満げに答える。


「あの半人狼のガードが堅くて、まだ始末出来てないよ。さすがに街中でドンパチやるわけにはいかないし?」

「春山りこが一人になる瞬間を見逃すな。不安要素はまだあるんだ」


その不安要素とは一体なにか、ヒカルが尋ねようとした時には、二人ともすでに町の裏側に広がる森へ入っていた。

ヒカルは質問をあきらめ、シフラと共に隠れ家へ急いだ。
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