ホルケウ~暗く甘い秘密~
(この様子なら、あれは言わないほうがいいかもな……)


つい先程、湯川が報告してきた内容を反芻する。


“この侵入者と、連続強姦事件の犯人の特徴が一致しています。同一人物であるかどうかは、現在調査中です”


今頃彼は、連続強姦事件の被害者の自宅を回っているはずだ。

もし、一致したら。

強姦事件の犯人は害獣事件との繋がりが疑えるうえに、人間離れした身体能力を有することになる。


(そんな化け物相手にするなら、本当に自衛隊に協力を要請するくらいしなければ……)


「増田さん、私なりに害獣事件について調べてみたんだが、一つ気になることがあるんだ」


どことなく歯切れの悪い切り出しをしてきた高橋に、増田は興味を惹かれた。


(いつもはっきり物を言うのに、珍しいな)


「その昔、65年前の白川町では、今と同じように人里にオオカミが現れ、人を襲っていた。その時生きてオオカミと戦った人の大半は、今はもう生きていないか、消息がわからない。だが偶然、私はその生き残りを見つけた」


それは、増田の親世代の間では、長らく禁忌とされてきた話題だった。

増田も、小さい頃に大人たちが話しているのを聞いたくらいで、詳細は知らなかった。

また、成人し、家庭を持ち、親から離れて何年も経ってから尋ねても教えてもらえない話題だった。


「海間信弘さんに会いたい。彼の話しを聞く機会が欲しい」


吹っ切れたように、高橋はそう言った。
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