ホルケウ~暗く甘い秘密~
ブルーバード動物病院裏に向かう途中、前を歩く男子のジャージのポケットから何か落ちたのを見て、りこは彼を呼び止めた。
落ちたのは、端々に落とした傷痕の残っているiPodだ。
落下した拍子にスイッチが入ったのか、ごく小さな音量ではあるが、音楽が流れ始めた。
「はい、落としたよ」
山崎が同じ班の女子の相手をしているのを確認して、りこはこっそりとiPodを渡す。
「ありがと。山崎こっち見てない?」
iPodの持ち主は、さりげなくりこの横に並び、小声で尋ねた。
ふと香る柔軟剤の匂いが独特で、りこは思わず彼の目を見た。
(確か同じ班の上原くんだっけ……。iPod持ってくるって、よっぽどゴミ拾いだるかったんだな……)
「大丈夫。ちゃんとこっちを見てないの確認したから、持ってきてることはバレてないよ」
こともなげにサラッとそう言うりこに、彼、上原は眉を吊り上げ瞠目する。
「なんだ、春山さん予想していたよりフランクじゃん。いつもすげえ優等生だからさー。てっきり告発されるかと」
「告発って、犯罪じゃあるまいし。優等生なんかじゃないよ。ただ地味なただけだって」
「じゃあ秀才。めっちゃ頭良いじゃん」
「それは日々の努力の賜物。お褒めに預かり光栄です」
茶化したようにりこが笑えば、上原が鋭く突っ込んだ。
「使ってる言葉から頭の良さが滲み出てるんだよな、春山さんって。だから取っつきにくい印象なのかもね」
特に嫌なことを言われたわけでもないはずだが、りこは言葉に詰まった。
心臓を鷲掴みされたかのように、いきなり鼓動が速くなる。
「そう言われたって……」
リアクションに困るんだけど。
言葉にならずに消えたそれを、言わずとも上原は察したらしく、こう付け足した。
「ごめん、初めて話すのに、いきなりこんな答えに困るようなこと言って」
「いや、気にしないで。なんだろう、まともに話しかけられたの久しぶりだから、色々鈍くなっていただけかも」
「あー。そういえば、なんで春山さんって女子に嫌われてるの?普通に話しやすいし、男に媚び売ってる感じもしないし」
上原の口から飛び出た言葉に、りこは一瞬固まった。
「媚び売ってるって、なにそれ」