ホルケウ~暗く甘い秘密~
ローストポテト、ほうれん草とベーコンのクリームドリア、生ハムとレモンのサラダ、トマトスープ、スズキのソテーオレンジソース、これらの料理が完成した頃に、りこは我に返り、そして顔を青くした。
とても、1人で食べきれる量ではない。
レシートの上に踊るギリギリ四桁の数字に至っては、目の錯覚か何かだと思いたいくらいだ。
「誰かの誕生日パーティーじゃあるまいし……」
一番量の少ないサラダとスープだけをよそい、りこは静かに1人の昼食を始めた。
作っている過程はまったく覚えていないが、今日の出来は中々である。
現実逃避をしながら、もぐもぐと咀嚼していたりこだが、インターホンが鳴ったため、食事を中断し、立ち上がった。
時計の針は、まだ1時30分を指している。
(宅配便かな?)
「はい、どちら様でしょうか?」
インターホン越しに聞こえた声。
それは、今朝がた聞いた、絹のごとく滑らかで艶のあるテノールだった。
「りこさーん、俺。玲」
慌てて玄関まで走り、りこは勢い良くドアを開けた。
ジャージのハーフパンツにTシャツ姿で、スポーツバッグを肩にかけた玲が、無邪気な笑顔で佇んでいる。
「数年ぶりの再会だし色々話したくてさ、学校終わってから真っ直ぐ来ちゃった」
(あー……癒される……)
天使のごとき美貌の少年に、こんな好意全開の言葉をかけてもらって良いのだろうか。
朝起きてからたった数時間で蓄積されたストレスが、見事なくなっている。
「回覧板は後でまた持ってく……」
廊下を歩いていると、玲は突然立ち止まった。
刹那、グーともゴーともつかない、奇妙な音が廊下に響いた。それも、盛大に。
「ごめん、ちょっとお腹すいてて……」
自分の腹から出た奇妙な音に苦笑いしながら、上目遣いでりこの様子を伺う。
その愛くるしい行動に、りこの脳髄は刺激されまくりだ。
なんだろう、へたな女の子よりよっぽど可愛
い。
いつか、玲を見て鼻血を吹く日が来るかもしれない。
自分の思考が変態じみていることに気づかないまま、りこは努めてニヤけた顔を隠した。
代わりに、いかにも年上といった感じの、大人びた微笑を向ける。
「よかったら、家でお昼食べない?ちょうど作りすぎて、困っていたところなの」