ホルケウ~暗く甘い秘密~
去年までボウリング場だったその廃墟の駐車場には、ありきたりなデザインの、ローズピンクの軽自動車が一台、静かに二人を待っていた。


「遅れてしまい申し訳ございません」


山崎を背負いながら、りこは軽く頭を下げた。

サングラスをかけ、ジーンズと白いシャツに身を包んだジェロニモは、神妙に頷く。


「あなた達がいなくなったことに関しては、ちゃんと手を打ってあります。学校側も詮索はしてこないでしょう。気絶している二人と春山さんは後部座席に。あなたは助手席にお乗りなさい」


テキパキと指示を出すジェロニモを、里美はそれとなく見た。

刹那、ジェロニモと視線がぶつかり合う。


「春山さん、彼女は一体誰ですか?」


深みのある穏やかな声で尋ねるジェロニモに、りこは簡潔に答えた。


「クラスメートの海間さんです。人狼の襲撃に遭い、身動きが取れなかった私を助けてくれました」

「海間……。ああ、信弘のお孫さんか」


ジェロニモの口から信弘の名が出た瞬間、里美の眉がピクリと動いた。

その気配を察したジェロニモは、里美が口を開く前にこう付け足した。


「君のお祖父様とは旧知の仲なんだ」

「そう、なんですか……」


里美が黙りこんだことでにわかに車内の空気が重くなるが、それも長くは続かなかった。

五分も経たないうちに、車は白川カトリック教会に到着したのだ。

白塗りされた壁と青い屋根が特徴の、その教会
の駐車場に入った時、りこはふと疑問が浮かんだ。


「スミス神父、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「平日の昼日中の教会って、こんなに人が来るものなんでしょうか?」

「まさか。この町は確かにクリスチャンは多いですが、日曜日のミサでもないのにこんなに人は集まりませんよ」


車のドアをバタン、と閉め、振り向き様にジェロニモは微笑みながらこう言った。


「あなた方にはこの上ない吉報だ。まずは彼を手当てして、それから話をしよう」

「あの、ちょっと良いですか?」


車から上半身だけ乗り出した体勢で、里美が張りつめた声音でジェロニモを呼んだ。


「さっきから、この子の体が冷たくなりつつあるんです。脈も弱くなってきているし……」


りこを襲った人狼の少年の顔は、乳白色になりつつあった。

いわゆる死臭と呼ばれる、死に瀕した生き物独特の匂いが、車内に満ちはじめていた。
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