ホルケウ~暗く甘い秘密~
息を吸いなおし、ジェロニモは確固たる意志を瞳に燃やしながら、演説を締めくくった。


「これ以上ボロディン族による被害を増やさないためにも、私ジェロニモ・ウィリアム・スミスは、ここに人狼研究機関<ホルケウ>の創立を宣言いたします!」


科学のメスが踏み込むことのなかった異能の世界に、小さな小さなヒビが入った瞬間。

りこはそれを、しっかりと見ていた。


「各学界の先生方には、人狼、半人狼の生態や身体能力の研究をお願いします。道警の皆さま方は、研究データをもとに、ハンター達と連携を取りつつ人狼の駆逐を。町長は、マスコミ対策をお願いします。この研究機関は、いわゆる秘密結社です。少数精鋭で構成されているため、組織図は簡単なものです。なので、ホルケウのことを口にした者は……」


「口にした者は、私の知るところとなるでしょう。私の持つ、もう1つの力によって」


スミス神父の言葉に、にわかに教会内に囁きが飛び交う。

超能力と呼ばれる、スミス神父の人智を越えた力を知る者たちは、そろって顔を蒼くした。


(ちょっと脅しが効きすぎてるみたいだけど、秘密結社なんて言うくらいなら、これくらい妥当なのかしらね)


ぼんやりとそう考えているうちに、りこはなんの高揚感も抱いてない自分に気づき、驚いた。

おそらくまだ現実の急展開を脳が受け入れきれていないのだ、などと冷静に自己分析するが、背後から聞こえた微かな呟きに、りこは振り返った。


「意味わかんないんだけど……。さっきからみんな、なんの話ししているの?人狼ってなんなの?まさかそんな化け物本当にいるとでも?」


いやいやと首を振る仕草の里美に、りこは何でもないような口調で言った。


「山崎先生の眼を見たよね」


りこの有無を言わせない雰囲気に、里美の肩がピクリと跳ねる。


「人狼に噛まれたら、人間は半人狼になる。人狼は普段は人の姿をしているから、外見で人かどうか判断するためには、眼を見ないといけない。光彩が金色なら人狼。ゴールドブラウンなら半人狼。普通の茶色や黒なら人間」

「人狼に噛まれた人間は2、3日熱にうなされる。高熱で死ぬことなく生き残った人間は、半人狼となるの」
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