ホルケウ~暗く甘い秘密~
育ち盛りの男子の食事量を知らないりこだが、少なくとも玲のそれは一般基準を遥かにオーバーしていることくらいは察しがつく。
天才、美味い、女性の鑑と褒めちぎり絶賛する玲に気を良くしたりこは、調子に乗って明日のお弁当の分まで出してしまった。
しかし、玲はそれすらも笑顔でいつの間にか平らげている。
それどころか、デザートがあることを知った時には目を輝かせた。
「玲……あんだけ食べといて、よく苦しくないわね……」
「え、俺、毎食これくらい食べてるよ?」
デザートのストロベリーアイスを大きく割って口に入れる玲を見て、りこは思った。
呉原家のエンゲル係数は、さぞかし恐ろしいことになっているだろう。
「学校はどうだった?」
紅茶を啜りながらボーッとしていたりこを、玲の声が現実に引き戻す。
レディーグレイの柔らかなベルガモットの香りを吸い込み、りこは目を閉じる。
そうすると、暗闇に今日1日の面倒な記憶が次々と浮かんできた。
「あまり好きになれそうにない、かな……。クラスメートにそこそこ顔の良い男子が二人いるんだけど、女子がそいつらに近づくなって態度でげんなりした」
ああ、そうだ。この現象、どっかで見たことあると思ったんだけど、思い出したわ。
あれよ。少女漫画、ケータイ小説の、いわゆる逆ハーもののヒロインがよく置かれている状況。
りこの独白に、納得しつつ声を殺して玲は笑う。
細めた目からは、柔らかな眼差しが注がれた。
心にスッと入る深いテノールで、玲はりこを労った。
「転校早々お疲れ様。ところで」
急に、玲の目から柔らかさが消える。
ライトブラウンの瞳は厳しさをたたえながら、りこを見据えた。
「もしかして、りこさんのクラスに、石田ってやついる?」